IT専門翻訳家
RSさん
運よく掴んだ翻訳の仕事を足がかりに、今やご主人を超える(?!)年収を稼ぎ出すというRSさん。仕事と家庭を両立できるのは「いい仕事を選べる恵まれた環境」のおかげだと話す。RSさんの念願だったという、海の見える高層マンションにお話を伺いに行きました。
初めて、仕事をもらったのは、翻訳スクールの同じクラスの人からでした。もう10年ほど前のことですが、その人はIT関係の企業に勤めていて、その企業でソフトウェアのマニュアルの翻訳が大量に発生したとかで、私にもお声がかかりました。とても急ぎの仕事だったようで、トライアルもなく即仕事となりました。
ええ。私はまだその頃、勉強の段階で仕事のレベルに達していないと思っていましたから、翻訳会社のトライアルを一度も受けたことがありませんでした。でも、スクールの友達の多くが、何度もトライアルを受けていました。トライアルの合格自体も難しいのですが、たとえ合格しても実務経験がないと、実際には仕事をもらえないと嘆いていたのを覚えています。それを聞いて、厳しい世界だなって思っていました。その点、私はトライアルを受けることなく、実務経験を1つ得ることができたわけなので、恵まれていたと思います。
そうですね。実は、翻訳者になろうと真剣に勉強する前は、大手コンピュータメーカーでサポートの仕事をしていたんです。なので、その初めての仕事は、私には比較的楽で、いい評価をもらうことができました。IT用語に比較的なれていたのと、画面のイメージが思い浮かぶので、深く悩む必要がなかったわけです。で、それ以来、ずっとIT関連の仕事ばかりです。
いいえ、スクールに通っていた時は、絶対海外のノンフィクションを1冊まるごと訳したいと思っていたんです。今でもその思いを捨てていませんが、同じ翻訳でもITと文芸じゃ難しいポイントが違うので、なかなか大変だと思いますね。私の実力では、きっと生活していけないんじゃないでしょうか。とても厳しい世界と聞いています。正直、IT関連をメインに翻訳をしようとは考えていませんでした。サポートの仕事でもうITは十分と思っていたので(笑)。
使い始めて1年になります。ネットで、ある翻訳者さんのブログをたまたま見たら「対訳君」が紹介されていて、「結構いいよ」って書いてあったので、興味がわきました。対訳君Plus※と英辞郎 for 「対訳君」のセットを購入しました。(※対訳君Plusは、対訳君Standardの旧バージョンに相当する製品です。)
いえ、全然(笑)。ごめんなさい。買ってから3ヶ月ぐらいは、全く値打ちが分っていませんでした。当時、私は大量に翻訳メモリーをためていて、それらを某自動翻訳ソフトの類似文検索モードで、つまり機械翻訳をオンにせずに、下訳をさせていました。その下訳をJammingを使いながら、ブラッシュアップさせていくという方法をとっていました。で、買ったときは、「対訳君」でも類似文の下訳ができると思っていたんです。でも、できないですよね。「なんだ、対訳を検索するだけで、置き換えてくれないのかぁ」とショックでした。実は最初、買ったことを後悔していました(笑)。
たまたま友達に誘われて大阪でMCLのセミナーに参加したんです。目からウロコって感じでしたね。日本語と英語の同時検索とか、「対訳君」を2つ開いて1つの語の訳しわけを枠を並べて比較する方法とか、エクセルを使った対訳一括登録とか、すごい便利じゃないか!って。よくこんな使い方思いついたなって本当に感心しました。これまで、対訳検索ソフトって使ったことがなかったので、使い方がわからなかったんです。そのセミナー以来、絶対に使いこなしてやるって思いました。
まず、セミナーの夜から、これまでためた大量の翻訳メモリーを対訳君用に変換しはじめました。数で言えば20万対訳ぐらいあったのですが、これは機械的な変換なので比較的すぐに終わりました。問題は自分の翻訳を対訳にしていく作業です。翻訳原稿はワードやエクセル、PDFやパワーポイントなど様々な形式のファイルで原文訳文別々に保存されています。画像などが邪魔をしてなかなか文字だけが抽出できない。それに、2文を1文に訳していたりその逆もあるし、また翻訳しなかった文章や段落があると、機械的に一文にわけていっても、すぐにずれてしまうんですね。だからすごく苦労しました。仕事で気分転換がしたい時は、対訳作成に励んで、結局それから3ヶ月ぐらいかかりました。それ以来、1文を2文に訳すときなんか、印をつけておくとか、後で対訳集にしやすいよう仕事の時に自然と工夫するようになりましたよ(笑)。学習っていうんですかね。
数字はオフレコです(笑)。確かに、去年セミナーに行く前とその後では、明らかに収入はアップしました。理由はいろいろあるのですが、一番大きいのは対訳の利用です。「対訳君」を使い始める前も翻訳メモリーを活用していましたが、ほとんど類似文として上がってこないのです。利用できる割合って10%以下って感じでしょうか。つまり、有効活用できていなかったんです。それが、「対訳君」を使い始めてからは、自分で検索語を次々追加していけるので、多かったら、絞り込んでいけばいいし、対訳が見つからなかったら、検索語を減らしていくとか、あるいは、同じ意味をもつ他の表現で検索するとかいうテクニックが使えるわけですよ。だから、結構対訳をすみずみまで利用できます。特に英訳の時には本当に便利ですね。同じソフトウェアのマニュアルなんか、かなりの割合で使いまわせますからね。もちろん、類似した翻訳例が入っていてこそですが。
まずは絶対に1つ1つの仕事を丁寧にやることです。もっと量をこなして稼ごうと思ったこともありましたが、結果的にクライアントを失ったり、修正させられたり、ろくな目にあわなかったですね(笑)。あと、翻訳会社経由ではなく、直接依頼してくれる上質のクライアントを多くもつことです。翻訳会社を通すとコーディネータがいるので、何かと楽で安心ですが、でも、確実に料金は抜かれちゃいますよね(笑)。クライアントも上質のクライアントを選ぶべきです。クライアントによっては依頼のたびに値切られて、気がつくとものすごくレートが下がっているなど、不愉快なこともあります。仕事が豊富なときなどは、値切られると「すみません、それじゃ他の方にお願いします」ってはっきり言うことにしています。ちょっと勇気がいりますが、でも、一回そう言っておくと、ほとんどの場合次回からは見積もり金額で仕事ができます。あと、私は主に、IT関係の会社から仕事を直でもらうことが多いのですが、担当者が異常に完ぺき主義だと、対応に困りますね。どっちでもいいんじゃないかなぁと思えることを何度も言われると、いやになる時があります。
絶対に大事なことは、ITスキルですね。今の時代、分野を問わず翻訳にはITスキルが必要です。例えば、トラドスなんかも結構使いこなすのは難しいツールだと思うんですが、クライアントがトラドスを指定してきたりしますからね。仕事の範囲を広げる意味でも、絶対にコンピュータに拒否感をもっては損です。「対訳君」の場合は、最初使わなかったのは、使い方がピンときていなかったのであって、使い方はいたって簡単ですね。簡単に使えるってすごく大事なことです。使い方を覚えるのに、何日もかかるようなソフトは基本的に受け入れられません。以前、サポートをやっていたころから、サポートへの電話が多いソフトやハードは、メーカー側に原因があるというのが持論でしたから。その意味で、「対訳君」は誰にでもすぐに使えるので、いいですね。小学生の娘も使っています。
もし、可能なら、ユーザー対訳集の文字制限をもっと大きくしてほしいと思います。翻訳原稿をまるごと対訳にすることなく登録できると楽ですね。あと、完全一致文を自動的に置き換えてくれる機能も追加してほしいですね、もちろん、今の対訳検索はそのままで。それと、医学版だけじゃなく、是非IT版を出してくださいよ(笑)。
元々は、プロの医学翻訳者のアイデアを基に開発された「対訳君」ですが、医学以外の分野でももちろん威力を発揮します。辞書の検索が効率よく行えるだけでなく、「対訳君」だけの用例検索機能によって「ネイティブのナチュラルさ」も思いのまま。